頭蓋骨持ち歩き少女賞(仮)応募作品『少女悪鬼譚』

 「頭蓋骨持ち歩き少女作品コンペ」に参加してみました。
 創作とか全然やったことないのですが、俺の中二病が……勝手に……!!


『少女悪鬼譚』


「――見つけたわ」
 逢魔時。世界が光から闇へと変貌しようとする最中、視線の先にひとりの男を捉えた少女は呟いた。


******


「――あァ? 何だってんだテメェ」
深夜。静寂が支配する公園を通って情婦のもとへ向かおうとしていた男の前に突如として影が現れた。
「………」
無言のままの影は男に数歩近づいてきた。男は影の正体に気づいた。影の正体は少女であった。しかし、その姿は異様なものであった。腰まで届く長い黒髪に黒い外套を羽織り、そして背中に巨大な黒塗りの木函を背負った黒ずくめの少女など異様としか言いようがない。
「テメェ何者だ、俺に何か用でもあるのか」
「――その通りだ」
「んァ?」
「お前への用はコレだ――」
「ガァッ!!!」
 男は突然の衝撃に叫び声を上げて跪いた。一瞬の内に少女が間合いを詰めて外套の中の左手に隠し持っていた「何か」を男に当てたのだ。
「特別製のスタンガンだ。しばらくは動けないだろう」
「グガァ!! アアアァァァ!!」
 男は悶える。少女はその姿を憮然として見下ろしていた。
「ハァ……ハァ……。畜生! 何故だ、何故俺を狙う!!」
「私はお前のことを一刻も忘れたことはないが、お前は私を知らないだろう。だから教えてやる――これが答えだ」
「――ッッ」
 少女は外套に隠れていた右腕をさらけ出した。そこにあったのは少女の右腕にしっかりと抱かれた髑髏であった。


******


「……4年前の11月5日。とある町のとある一家が惨殺された。しかし、一人だけ生き残った娘がいた。娘は母の咄嗟の機転で物置の中に匿われたからだ。娘は物置の隙間から全てを見ていた。父と母、そして兄が殺される様も。家族を殺した犯人たちの顔も」
「テ、テメェ……。あのときの……!!」
「娘は警察がきても何も分からないと答えた。犯人たちの顔は目に焼き付いていたが、全てを黙っていた。決めていたからだ。仇は己で討つと――。そして事件は娘の思惑通りに迷宮入りとなった。――一家惨殺首なし殺人事件として」
「そう不思議だったんだ。俺らは誰も首なんて斬っていないのに何故――」
「――首を斬ったのは娘だよ。娘はこう思ったのだ。自分を殺した相手がのうのうと生きていては父も母も兄も報われないと。成仏などできないと。だから娘は見せてあげようと決めたのだ。自分を殺した相手が殺される様を。それでこそ家族も報われると」
「じゃあ、その髑髏は……」
「この顔を忘れたか? お前が殺した私の兄の顔だ。そして父も母もいる」
少女は背中の木函に目線をやった。
「家族の髑髏を持ち歩いているか!? 狂人が!!」
「狂人? 私は至極当たり前に復讐を果たそうとしているだけだ」
 少女は言い放つと、跪いた男に向かって左手のスタンガンを突き出そうとした。
 一閃。しかしスタンガンが男に当たることはなかった。いや、それどころかスタンガンごと少女の左腕は消失していた。男が隠し持っていたナイフで迎撃し、娘の左腕を斬り飛ばしたからであった。
「テメェが長話をしている間にだいぶ回復させてもらったぜ。俺も鍛えてるんでなァ。形勢逆転だ」
 男が立ち上がると左腕を失った衝撃からか踞った少女を見下ろして言い放った。
「俺を見下しやがって……!! 俺を見下す奴は誰であろうと許さねぇんだよォ!!」
 このとき自身の勝利を確信した男は気付かなかった。踞っていた少女の顔が不敵な笑みを浮かべていることを。
「形勢逆転? 何を言っている。左腕がもげただけだろう?


 ――それがどうした」


 銃声が響く。一瞬の静寂の後に男は突っ伏し、少女は立ち上がった。
 右腕に抱えた髑髏の中に拳銃が見えた。
「ぐぉおぉおおぉッ!! 俺が!! 俺がこんなところで……」
「見下す奴は許さない? ならば見下してやろう。お前が下で私が上だ。分かった?」
 再びの銃声。銃弾に貫かれた男の時はそこで止まった。


******


「兄さん、ちゃんと見ていてくれた? 兄さんの仇は討ったわ。兄さんもこれで安心して眠ることができるよね? ――私と離れたくない? 安心して。私は兄さんから離れないわ。私の左腕を兄さんにあげるから。左腕を通して私と兄さんはいつも繋がっているの」
「次は父さんと母さんの仇を取らなきゃね。あと二人……。ふふっ」
 血に濡れた兄の髑髏を愛しそうに抱きながら、左腕を失くした少女は静かに微笑んだ。


 そこにいたのは少女の形をした一匹の悪鬼であった――。